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【憲法】憲法の答案の書き方

〔回答〕 実務法学研究会講師 北出容一

憲法における原告、被告、私の見解の区別の方法を教えてください。

司法試験憲法における原告の主張について

1 原告の見解を間違えると被告・私もズレます。
  ―原告で無理筋の主張をしないー

原告代理人も、憲法の基礎と判例や通説を知っている以上、無理な主張はしません。なぜなら、原告が下記の各主張を間違えると、被告は、そのズレた各主張に対し反論をすることになり、私は、原告のズレた各主張に対する被告の各反論に対し、各々見解を述べることになるからです。

このような事になれば、憲法で大量失点を浴び、それだけで合格ラインを割ることになりかねません。

2 人権選択の判断(原告にとって一番実益のある人権を選択)

憲法において、どの人権が制約されたと主張するのか、人権選択の判断については、原則として、原告が決定します。原告は、原告にとって実益があり、原告の意思に合致した人権を選択します。

3 違憲審査基準を書くか否かの判断

一般に判例や学説が違憲審査基準を定立するのは、A自由権、参政権、平等権です。これに対し、B請求権で抽象的権利の場合には、特に審査基準を立てることなく、具体化立法の解釈に入ります。

上記AとBの人権選択の判断を誤ると、違憲審査基準定立の要否の判断も間違えることになります。

4 違憲審査基準選択の判断

原告の違憲審査基準(ないしその厳格度)の選択にあたっては、憲法の基礎と当該ケースと判例の動向に鑑み、(少なくとも受験上は)あり得ない無理筋の審査基準を、さしたる理由もなく断定しないように注意をすることが必要です。

原告代理人も、憲法の基礎と判例や通説を知っているという前提で、当該ケースの特殊性をも踏まえて、原告にとって、もっとも有利な審査基準を援用し、有利な判例があればその射程内であることを示します。

原告にとって不利な判例が立ちはだかる場合には、当該ケースの特殊性等を踏まえて、より有利な判例によるか、判例を批判して通説や有力説の違憲審査基準によるかを考えます。

5 【違憲審査基準のあてはめ】①
―法令違憲と処分違憲の選択の判断―

原告の見解において、法令違憲と処分違憲をポリシーを持って的確に区別する必要があります。仮に、「どのような問題でも機械的に法令違憲と処分違憲の双方を均等に記載する」ならば、「法令違憲と処分違憲の区別をなし得ない」ことを自認するに等しいと考えます。

原告の立場としても、憲法の基礎ないし判例通説の動向に照らし、「法令違憲」をいうのが無理筋の場合もあり得ます。

「法令合憲が動かせない」ならば、無理な法令違憲で時間を浪費せず、処分違憲に集中するのが、原告の利益になるはずです。

法令違憲と処分違憲の区別は、実務法学研究会の論文合格講座で詳細に解説がなされております。

6 【違憲審査基準のあてはめ】②
―【法令違憲のあてはめ】について―

⑴ 原告が、法令違憲になると判断した場合、選択した違憲審査基準を、法令の目的や法令上の手段(要件と 効果)にあてはめます。但し、特に憲法の場合、基準をあてはめれば、機械的に答えが出てくる訳ではなく、ケースに則して考える必要があります

⑵ 法令審査のあてはめをするためには、違憲審査基準の各要素のあてはめの方法を熟知していることが必要です。

⑶ いわゆる、①法令の規制目的自体、②目的と当該手段との関連性、③規制手段(規制立法の要件・効果)のどこに「争点」性があるかを的確に見極め、争点を中心に、丁寧にあてはめます。そのためには、上記①目的審査のあてはめ、②関連性審査のあてはめ、③の手段審査のあてはめを熟知していることが必要です。

 上記「争点」について、「問題文に書いてある立法事実」と「問題文に書かれざる立法事実」の双方を踏まえて、違憲審査基準を法令にあてはめ、文理解釈のままでは(合憲限定解釈をしなければ)、当該法令は法令違憲であることを主張します。

⑸ 「立法事実」を踏まえてあてはめる際、注意を要するのは、①目的審査、②関連性審査(規制の必要性の有無、③規制の効果の有無)、手段審査(得られる利益と失われる利益の比較する手段審査、手段と手段を比較する手段審査)毎に、立法事実とあてはめのが異なり得ることです。

⑹ 「立法事実に基づいた法令審査(上記①②③)の判断方法(あてはめ)」については、実務法学研究会の論文合格講座で詳細に説明がなされております。

7 【違憲審査基準のあてはめ】③
 ―【処分違憲のあてはめ】について―

法令違憲にできない場合、原告としては、合憲限定解釈の要否ないし可否自体と、いかなる合憲解釈をするべきかを判断します。

⑴ 合憲限定解釈の「要否ないし可否」の判断

最終的に法令合憲にする場合、法令の文理解釈のまま処分の違憲をいえば足りるのか、法令を合憲的に限定解釈(あるいは拡張解釈、類推解釈)する「必要があるのか」、あるいは法令を合憲限定解釈することが「可能であるのか」、を的確に判断する必要があります。

⑵ 合憲限定解釈の「解釈内容の」判断

法令を合憲的に限定解釈(あるいは拡張解釈、類推解釈)する必要があるとして、ある法令の要件又は効果「χ」を、どのように解釈すればよいのかを判断する必要があります。

そのためには、「立法事実を踏まえて憲法的な利益を衡量」しつつ、「行政法実体法の現場解釈」をする能力が必要となります。

「行政法実体法の現場解釈」については、実務法学研究会の、行政法の各講座で詳細に説明がなされております。

⑶ 合憲限定解釈した法令の「要件事実の主張」のあてはめ

合憲限定解釈した法令の「要件に該当する具体的事実」は、当該事件、当該当事者に関する所謂司法事実が中心になります。

但し、その司法事実(当該ケースに関する事実)は、立法の合理性を支える立法事実(一般的な社会的事実歴史的事実)と無関係に存在する訳ではないことに注意を要します。

また、合憲限定解釈した法令の「要件事実の主張」をする際、関連する憲法の条文番号とその制度趣旨を摘示するなどして、その司法事実の意味を憲法的に評価して主張する必要があります。なぜなら、そうでないと、単なる行政法の答案になってしまうからです。

 

司法試験憲法における被告の反論について

1 被告の反論≒当該憲法訴訟の真の争点を端的に指摘

判例通説を知っているはずの上記原告の主張に対し、「被告の反論のポイントを簡潔に指摘せよ。」という司法試験の問いは、換言すれば、「本件憲法訴訟における実質的争点のみを簡潔に指摘せよ。」、ということを意味します。

なぜなら、当然ことながら、判例通説を知る原告の各主張に対し、同じく判例通説を知る被告が反論し得るところが、憲法訴訟の真の争点だからです。

2 被告で無理筋の反論をしないこと
  ―真の争点、実質的争点についてのみ反論をするー

被告ないし検察官も、憲法の基礎と判例や 通説を知っている以上、無理な主張はしません。なぜなら、被告が無理な反論をすると、私も、被告の無理な反論に対し、本来する必要もない無益な再反論をすることになり、一気に時間を浪費する事になるからです。

そこで、被告は、原告がした数多くの主張の中で、「真の争点のみ」を選択し、それのみに対し、反論のポイントを指摘します。

3 「真の争点のみに」被告の反論を絞るに必要な能力

被告が、「真の争点のみ」に対し反論をするためには、ア 人権選択の判断、イ 違憲審査基準選択、ウ 法令違憲と処分違憲の選択、エ 法令審査(①目的審査、②関連性審査、③手段審査)、オ 処分審査(①合憲限定解釈の「要否ないし可否」、②合憲限定解釈の「解釈内容の」判断、③限定解釈した「法令のあてはめ」)等々、原告主張の各要件について、瞬時に的確なあてはめができている必要があります。なぜなら、原告主張の上記アからエの各要件について、的確にあてはめる能力がなければ、これらにつき、明らかに認められるもの、明らかに認められないもの、争点性のあるもの、断定できず場合分けをすべきものを区別することができないからです

上記アからエまでのあてはめについては、実務法学研究会の論文合格講座、各種答案練習会等で詳細に説明がなされております。

 

私の見解(大人の議論をすること)の注意点

1 憲法と判例を知っている原告の主張のうち、「真の争点」に対し、憲法と判例を知っている被告が切実な反論をし、その「真の争点」に対し、私は、中立的な第三者として、憲法上もっとも良い解決策を示します。

2 その際、「問題文の短い事例と参照条文のみ」から、私は、本当に自分の見解を「断言できるのか?」を警戒する必要があります

例えば、A寺が将来に向けて参考法令13条に沿った措置を取る意向があるのか(24年)、B村自身で墓地を運営するために要する費用(24年)、デモにより生じる交通事故の危険の程度(25年)、大学の講演会で議員が発言する内容(25年)、ハイブリット車による排ガス減少の量(26年)等を場合分け又は場面設定することなく、本当に私の見解を「断定することができるのか?」をよく考える必要があります。

3 そして、問題文の事実のみから断定できないとすれば、私は、どのような見解を述べればよいかを研究する必要があります。この点については、実務法学研究会の(新)司法試験過去問答練、論文合格答練等の解説講義や参考答案で、説明がなされております。

 

「憲法における原告、被告、私の見解の区別」のポイント

以上により、「憲法における原告、被告、私の見解の区別」を的確にするためには、結局、人権選択、審査基準選択、法令違憲のあてはめ、合憲限定解釈等のあてはめ知識とあてはめの能力を充分鍛えることが必要です。

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