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『逸失利益の研究』二木雄策(知泉書館)

書評

生命侵害の不法行為が、民事訴訟で最も重要な分野であることは、言うまでもありません。

そして、生命侵害の不法行為における逸失利益は、『結果的に金額で表示されるとはいえ、本来は人間の生命の問題』で、極力正確に算定される必要があります。

とはいえ、逸失利益の算定は、それを法律問題とするにせよ、事実認定(将来の予測)の問題とするにせよ、経済学や数学の知見と密接に関わり、必ずしも容易ではありません。

本論文は、経済学の知見も踏まえ、逸失利益の算定に関わる諸判例を詳細に分析しつつ、経済学の見地と法律学の見地の双方から、あるべき逸失利益の算定方法について明瞭に解説をしています。

平成22年に出された最新判例をも踏まえた、逸失利益最新の論文集です。

経済学者の目からみた中間利息控除に関する論文集であり、法的思考とは別の視点も加味されているため、実務担当者に有益な一冊だと思います。

本書の読み方

はじめに、逸失利益の基本的算定方法の仕組みを理解します。

逸失利益算定は、①『将来得られる』所得の額を推計し、そこから、②利息による増殖部分を控除するという二つの段階によりなされます。 支払われた賠償金は、本来は、①将来受け取るはずだった収入ですが、それを現在受け取ったことにより、②現在から『利殖』し得るので、その利殖の  分を控除して賠償額を支払うことにより、賠償金の貰い過ぎを防ぎ、公平になるというのが、逸失利益算定の考え方です。

次に、利殖分の控除の場合、いかなる解釈・算定方法を採用するのが最も合理的なのかが問題となります。ここでは、逸失利益算定の基礎となる、『実質利子率』と『名目金利』との違いを強く意識するのがポイントです。違いが意識できると、利殖分を控除する際の問題点(いわゆる中間利息控除の問題)がはっきりすると思います。

本書は、当該問題点について、経済学と法律学とが密接に関連していることから、双方の見地を踏まえた中間利息控除の合理的な算定方法を主張しています。 経済学的視点を加味した本書の立場を理解した上で、逸失利益に関する現在の判例の状況と民法改正の動向を理解することは、中間利息控除の問題の理解に有益であると思います。